月より団子か、はたまた酒か:10/1(旧暦8月15日)

 去る十月朔日は旧暦の八月十五日。すなわち中秋の名月。

 ありし日の江戸の有り様を嘉永二年生まれの、水道の水にて産湯を使いし、我らが江戸っ子・蘆の葉散人翁に語っていただきましょう。


 さて、盆提灯に毎夕火を点し終えるや、日脚も短く、朝夕に冷気が加わり、清風が夜を永くいたします。この時分は弥陀詣でに、札所の観音参りと、老爺老媼も野外に杖を曳く、一年の中で最たる好季の誘うところでございましょう。八月十五日といえば満月だからと、江戸中が武家・寺社の区別もなく、職人も商人もみな一様に団子づくりに励みます。団子の大きさは、直径が三寸五分ぐらいから、小さいものは二寸余といたします。柿・栗・里芋・枝豆・葡萄を添えて、三方盆に堆く盛り上げ、ススキや秋の草花を花入に挿して、月に供えます。三方盆と花入を座敷の縁先、或いは屋上の物干し台に飾って、文人墨客は十五夜の晴曇が分からないからと、十四日の夜には月見の宴を開き、詩歌連俳を楽しみます。

 昨十四日から八幡宮も祭礼でございます。深川の富ヶ岡八幡宮はとりわけ賑わい、楽車・屋台・練物などが出れば、その他の江戸近在に至るまで八幡宮の社がある所は神楽囃子に手踊り等の催しがございます。当日は神輿の渡御もあり、芝田町西久保八幡宮は産子が町中で醸造した甘酒を来客に振る舞い、もてなします。

 ところで、くだんの月見団子、前日に臼で粉を挽き、あらかじめ団子の粉をつくっておいて、十五日の早朝から家族総出でつくるのを吉祥としたり、月に供える団子のほかに、小団子をつくって、一人十五個ずつに柿栗等を添えて配ったり、家族の多い家では大量につくるため、大勢の手伝いで台所があふれかえり、ずいぶん大騒ぎしたりするのも、相も変わらない家例として、おめでたいことでございました。大江戸の繁盛、また今日では江戸府にもっとも多く祭られている八幡宮の祭礼で、遠くは神楽太鼓の音が響き、近くは幟の見える所がここかしこにあって、賑やかなことでございました。

※なお、「散人翁の風俗往来」のラベルがついた記事は、蘆の葉散人翁こと菊池貴一郎(後の四代目歌川広重)が著した『江戸府内絵本風俗往来』(明治38年12月25日発行)の内容を一部紹介するものです。


(画:蘆の葉散人翁こと菊池貴一郎〈後の四代目歌川広重〉)

(photo byすしぱく

(2020.10.10公開)




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